先日、SECCON 2022 の Devil Hunter という問題をテーマに ClamAV のバイトコードシグネチャの作成と解析方法をまとめた記事を作成しました。
この記事の中では扱いませんでしたが、バイトコードシグネチャの解析手法として、libclamav にパッチを当てることで実行されるバイトコードを追跡する神解法が存在します。
参考:hxp | SECCON CTF 2022 Quals
本記事では、上記の Writeup を参考に、libclamav にパッチを当てることでバイトコードシグネチャの動作を解析する手法についてまとめます。
なお、libclamav にパッチを当てる際には、ソースコードから ClamAV を自身でビルドする必要があります。
ClamAV のビルド方法については以下の記事でまとめています。
参考:ClamAV をソースコードからビルドして OnAccessScan をセットアップするまでのまとめ
もくじ
libclamav をカスタマイズして条件分岐時のオペランドをダンプする
この手法を利用するため、libclamav の bytecodevm.c 内の `DEFINEICMPOP(OPBCICMP_EQ, res = (op0 == op1));` の行を以下のように修正します。
// DEFINE_ICMPOP(OP_BC_ICMP_EQ, res = (op0 == op1));
DEFINE_ICMPOP(OP_BC_ICMP_EQ, printf("%d: %x == %x\n", bb_inst, op0, op1);res = (op0 == op1));
この変更によって、OP_BC_ICMP_EQ
が呼び出される際に比較される 2 つの値をダンプすることができます。
実際にこの変更を行った環境で、clamscan によるスキャンを実施してみます。
以下は Fake Flag をスキャンした場合の結果です。
また、以下は正解の Flag をスキャンした結果です。
libclamav にシンプルなパッチを当てただけで、このバイトコードシグネチャがスキャン対象のテキストを加工した結果をハードコードされた整数値と比較していることを簡単に特定することができます。
バイトコードシグネチャのデバッグトレースを有効化する
libclamav では cli_byteinst_describe(inst, &bbnum);
を使用して実行中のバイトコードをトレース可能な TRACE_INST
が用意されていますが、この機能はデフォルトで無効化されています。
有効化するためには CL_DEBUG
のフラグを立て、TRACE_INST
を含むセクションの #if 0
を #if CL_DEBUG
に変更します。
参考:clamav/libclamav/bytecode_vm.c at patch-libclamav · kash1064/clamav
[+] #define CL_DEBUG 1
***
[-] #if 0 /* too verbose, use #ifdef CL_DEBUG if needed */
[+] #if CL_DEBUG /* too verbose, use #ifdef CL_DEBUG if needed */
#define CHECK_UNREACHABLE \
do { \
cli_dbgmsg("bytecode: unreachable executed!\n"); \
return CL_EBYTECODE; \
} while (0)
#define TRACE_PTR(ptr, s) cli_dbgmsg("bytecode trace: ptr %llx, +%x\n", ptr, s);
#define TRACE_R(x) cli_dbgmsg("bytecode trace: %u, read %llx\n", pc, (long long)x);
#define TRACE_W(x, w, p) cli_dbgmsg("bytecode trace: %u, write%d @%u %llx\n", pc, p, w, (long long)(x));
#define TRACE_EXEC(id, dest, ty, stack) cli_dbgmsg("bytecode trace: executing %d, -> %u (%u); %u\n", id, dest, ty, stack)
#define TRACE_INST(inst) \
do { \
unsigned bbnum = 0; \
printf(""); \
cli_byteinst_describe(inst, &bbnum); \
printf("\n"); \
} while (0)
これで再ビルドした ClamAV を使用してスキャンを行うと、以下のように実行時のバイトコードトレースを参照できるようになります。
しかし、以下のコードを見るとわかる通り、cli_byteinst_describe
で出力可能なトレースは clambc コマンドで逆アセンブルしたものと同じように、オペランドは変数で表されており、実際の値を参照することはできません。
void cli_byteinst_describe(const struct cli_bc_inst *inst, unsigned *bbnum)
{
size_t j;
char inst_str[256];
const struct cli_apicall *api;
if (inst->opcode > OP_BC_INVALID) {
printf("opcode %u[%u] of type %u is not implemented yet!",
inst->opcode, inst->interp_op / 5, inst->interp_op % 5);
return;
}
snprintf(inst_str, sizeof(inst_str), "%-20s[%-3d/%3d/%3d]", bc_opstr[inst->opcode],
inst->opcode, inst->interp_op, inst->interp_op % inst->opcode);
printf("%-35s", inst_str);
switch (inst->opcode) {
// binary operations
case OP_BC_ADD:
printf("%d = %d + %d", inst->dest, inst->u.binop[0], inst->u.binop[1]);
break;
case OP_BC_SUB:
printf("%d = %d - %d", inst->dest, inst->u.binop[0], inst->u.binop[1]);
break;
case OP_BC_MUL:
printf("%d = %d * %d", inst->dest, inst->u.binop[0], inst->u.binop[1]);
break;
***
参考:clamav/libclamav/bytecode.c at main · Cisco-Talos/clamav
そこで、TRACE_INST
に加えて TRACE_PTR
、TRACE_R
、TRACE_W
、TRACE_EXEC
、TRACE_API
のデバッグ出力を標準出力に返すように libclamav のコードを修正しました。
// #define TRACE_PTR(ptr, s) cli_dbgmsg("bytecode trace: ptr %llx, +%x\n", ptr, s);
// #define TRACE_R(x) cli_dbgmsg("bytecode trace: %u, read %llx\n", pc, (long long)x);
// #define TRACE_W(x, w, p) cli_dbgmsg("bytecode trace: %u, write%d @%u %llx\n", pc, p, w, (long long)(x));
// #define TRACE_EXEC(id, dest, ty, stack) cli_dbgmsg("bytecode trace: executing %d, -> %u (%u); %u\n", id, dest, ty, stack)
#define TRACE_PTR(ptr, s) printf("ptr %llx, +%x\n", ptr, s);
#define TRACE_R(x) printf("%u, read %llx\n", pc, (long long)x);
#define TRACE_W(x, w, p) printf("%u, write%d @%u %llx\n", pc, p, w, (long long)(x));
#define TRACE_EXEC(id, dest, ty, stack) printf("bytecode trace: executing %d, -> %u (%u); %u\n", id, dest, ty, stack)
#define TRACE_INST(inst) \
do { \
unsigned bbnum = 0; \
printf(""); \
cli_byteinst_describe(inst, &bbnum); \
printf("\n"); \
} while (0)
// #define TRACE_API(s, dest, ty, stack) cli_dbgmsg("bytecode trace: executing %s, -> %u (%u); %u\n", s, dest, ty, stack)
#define TRACE_API(s, dest, ty, stack) printf("bytecode trace: executing %s, -> %u (%u); %u\n", s, dest, ty, stack)
参考:clamav/libclamav/bytecode_vm.c at patch-libclamav · kash1064/clamav
この修正を有効化すると、以下のようにメモリの read/write などのトレースを行うことができるようになります。
上記の出力を見るとわかる通り、トレースした実行コードの直後に、メモリの read/write の情報が出力されます。
例えば以下の部分では、v640 と v1240 がそれぞれ 0x6cbfdd9f を read して OP_BC_ICMP_EQ
による比較を行い、その結果(1) を @644 に格納しています。
OP_BC_ICMP_EQ [21 /108/ 3] 644 = (640 == 1240)
1444, read 6cbfdd9f
1444, read 6cbfdd9f
1444, write8 @644 1
また、以下の部分では、p.248 のポインタから 0x33547962(3Tyb
)という 4 文字分の整数値を read し、v256 に書き込んだ上で Func2 の引数として関数呼び出しを行っていることを確認できます。
OP_BC_LOAD [39 /198/ 3] load 256 <- p.248
530, read fffffffe00000019
ptr fffffffe00000019, +4
530, read 617f7db2ab69
530, write32 @256 33547962
OP_BC_CALL_DIRECT [32 /163/ 3] 260 = call F.2 (256)
bytecode trace: executing 2, -> 260 (32); 2
このようにデバッグトレースを有効化すると、前回の記事のように頑張って逆アセンブルコードを読まなくても、Flag のテキストが 4 文字ずつに分割され、32bit 整数値として Func2 に受け渡されることを簡単に特定することができます。
まとめ
デバッグトレースめちゃ便利でした。
今後バイトコードシグネチャ問がでても余裕で解けそうです。